オーストラリアの看護師事情と看護コース

オーストラリアで看護師として働いた経験を持つ弊社マネジャーが、看護師事情と看護コースについて語ります。

 

 

オーストラリアの看護登録機関

オーストラリア看護・助産協議会は首都キャンベラに置かれ、看護師とその専門職の国家標準の全般的な統制や規制を司り、主に管理執行業務を行っている。各州には看護委員会があり、看護師として就労を希望する者は、その働きたい州看護委員会の発行した登録証を保持しなければならない。各州の看護委員会は、看護教育訓練機関が確実にオーストラリア看護・助産協会の要求する基準を満たす教育訓練を実施できるよう、各教育機関と密接に連携している。正看護師(Registered Nurse - RN ※)を目指す者は大学で、准看護師 を目指す者(Enrolled Nurse - EN ※)はTAEFで学ぶこととなる。  

  正看護師は正確には Registered Nurse Division One」、准看護師は Registered Nurse Division Two だが、普通「Registered Nurse」と言うと Registered Nurse Division One (正看護師)のことを指し、准看護師は Enrolled Nurse と言う場合がほとんどである。

オーストラリアで看護師を目指す  

正看護師の資格を取得する大学課程は、看護学士課程(Bachelor in Nursing)で通常3年間フルタイムで修了可能だ。課程は一般の大学生と同様理論を学ぶことは勿論、病院、コミュニティーセンター、老人介護施設、精神病院、地域看護等で臨床実習を行う。コース修了後、その教育機関の置かれている州で看護登録を行った後、一般の病院が実施している、一年間の新卒者プログラムに参加する。各大学の新卒者は150400名に至るが、大学の学士課程を修了した卒業生全員が、新卒者プログラムへの参加を果たせるという保証はない。

日本の看護師が学士号取得を目指す  

1990年以前は、オーストラリアで訓練を受けた看護師はサティフィケート、又はディプロマを取得していた。現在は、過去にディプロマを取得した看護師は6ヶ月又から2年間就学して、看護学士号にグレードアップすることができる。そして、看護学士号を取得することで、大学院レベルの看護学の様々な分野から特定の分野のコースワークや研究過程に進学することができる。日本の看護師は、オーストラリアではディプロマ取得レベルとして扱われるので、日本の看護師の多くは1年~2年間、大学で勉強することになる。  

大学院の課程によっては臨床実習がコースの一環となっていて、オーストラリアの看護登録をしていることが入学必要条件であることもあるので、大学院課程に進学を希望する学生は大学側に入学必要条件を確認しておくとよい。これは大学によって大幅に異なることもあり、例えば、その大学院課程期間に限られた、一時的に看護登録をするように指示する大学があり、その場合、看護委員会に自分で申請しなければならず、一時登録を得るまでに長期間を要し、プロセスが非常に複雑なこともありうる。又一方、自国での現行の看護登録、つまり現役で看護師として働いていればよいと指示する大学もある。  

日本では看護学校を卒業すると同時に免許が発行されるが、オーストラリアでは毎年看護登録を更新しなければならないという両国間の違いがある。特に、日本で看護師として現役で長期間働いていなかった者は、大学院進学を希望する場合に問題が生じることがあるので留意すること。



各州、各準州 大学別に見るコースの傾向

ニュー・サウス・ウエールズ(NSW)州
看護学を持つ大学には、大規模なシドニー工科大学(UTS)、オーストラリア・カソリック大学(ACU)(シドニーキャンパス)、ウェスタン・シドニー大学(UWS)が挙げられる。シドニー工科大学とオーストラリア・カソリック大学は現地で評判が高く、特にACUはシドニーの都心北部に位置し、極めて便利なロケーションにある。

UWSは都心から離れた郊外にあり、公共交通機関は比較的不便である上、郊外4ヶ所に散在している。

ACUのシドニーキャンパスでは、3年間のコースに申請をし日本での学歴と職歴で科目履修免除をもらうことになる。ACUの看護学は、市の中心部にほど近い郊外に位置する小規模キャンパスの一角にて開講されている。

UTSは日本人看護師に適した看護登録の可能な一年間のプログラムは開講していないため、看護登録を行うためには3年間の学士課程で就学する必要があるが、これまでの既得単位も考慮される。同コースを修了するには、サマーセメスター(Summer semester:夏休みを利用して受講する単位取得コース。)を含めて2年間必要。
UTSは郊外ならび都心にキャンパスを構えている。都心のキャンパスは主要駅から近く、規模の大きい付属語学学校を備えている。この語学学校の日本人の割合はかなり少ない。加えて、看護学コースにおいても、日本人学生はきわめて少数である。



NSW州の田舎町ウーロンゴン、ニューカッスル、アーミデール(ニューイングランド大学)のような都市には看護学のある大学もあるが、大学自体はもちろん、ランゲージセンターも極めて小規模である。

ビクトリア州
この州の多くの大学が看護学部を置いており、ほとんどの大学で3年間の看護コースに申請をし、学歴と職歴で単位免除をもらうことになる。通常の単位免除科目数は1年分だが、例外もあるので申請をし、審査を受けることをお勧めする(ACURMITVictoria Uni)。

モナッシュ大学は日本の学歴と職歴があっても単位免除をもらうのが難しく、ほとんどのケースで3年間就学となる。ラ・トローブ大学では、1年間のコンバージョン・プログラムを開講している。付属語学学校からのダイレクト・エントリーを受け入れているので大学に入学する際にはIELTS受験は必要ない。が、看護師登録をする際にIELTS 7.0が必要になる。RMIT大学の看護学部は、都心部にある同大学付属のランゲージセンターからはかなり離れた郊外に位置しているが、規模はかなり大きく、IELTSの受験無しで付属のラングエッジセンターからのダイレクト・エントリーを受け入れている。
ACUは都心に位置し、メルボルン周辺の大規模な病院から近いが、ランゲージセンターは他のどの大学付属のそれと比較しても小規模であり、看護コースに入学するにはIELTS受験が必須である。

南オーストラリア州
州都アデレードには、アデレード大学、フリンダース大学そして南オーストラリア大学に看護学校が置かれている。アデレード大学と南オーストラリア大学はフリンダース大学と比較して都心に近いが、フリンダース大学には大学付属病院がキャンパス内にあり、看護師はもとよりインターン医師の実習も行っている。フリンダース大学には、一年間のコンバージョン・プログラムを開講している他、看護学以外で学士号を保持している者を対象とした2年間のプログラムもある。アデレード大学はコンバージョン・プログラムを開講していないが、3年間で看護学を学びたい場合には適したプログラムである。

クィーンズランド州
クィーンズランドの主要な看護学校といえば、オーストラリア・カソリック・大学 (ACU)のブリスベンキャンパス、グリフィス大学とクィーンズランド工科大学(QUT)で、何れも高く評価されている。QLD州のすべての看護コースは入学するのにIELTS 7.0が必要で、看護師登録をする際に、もう一度IELTSを受験する必要がある。

サンシャインコースト大学とQUTには、看護学士号以外の学士号を取得した者が対象の、2年間の看護コースが開かれている。

タスマニア州
看護学部のある大学はタスマニア大学のローンセストンキャンパスが唯一である。英語入学基準値は3年間のコースでIELTS6.5、単位免除を希望するものはIELTS 7.0が必要である。ランゲージセンターもキャンパス内にある

首都特別地域(ACT
キャンベラには唯一キャンベラ大学がある。入学英語基準はIELTS6.5以上で、小規模な付属ランゲージセンターがある。

北部準州(ノーザン・テリトリー)
北部準州では、ダーヴィンのチャールズ・ダーヴィン大学に看護学部を有する。正看護師を目指すプログラムは、
1年コースとしては開講されていないが、現地のTAFE看護コースを修了したenrolled nurseを対象に開講されている2年間の特別プログラムへ入学することは可能だ。看護学コース入学にはIELTS6.5以上が必要となる。同大学のランゲージセンターは小規模である。他州の大学と異なるユニークな点としては、就学中にオーストラリア僻地に居住するアボリジニー社会での看護を体験できることだ。

コースの選択

どの州、どの学校を選ぶべきかを一言で語るのは至難の業だ。選択は各々の状況によって異なる。現地の看護師を目指すにあたって、避けられない問題は、患者や他のスタッフと如何に上手くコミュニケーションを取れるかであり、これは病院側の責任問題にも影響する。そのため、「英語を母国語としない看護師の英語の最低基準をIELTS7.0」とオーストラリア全国の看護委員会が規定したのは極最近のことだ。これは訓練看護師、正看護師に関わらず患者の病状に関する指示を誤解したり、不正確な報告を行ったために問題が起こる確率が非常に高いからである。そのような問題が起こると病院側も看護師も困難な法的立場に追い込まれる。

概して、一般病院で働きたいのであれば英語をできるだけ長期間学習し、看護学部課程で2年以上就学することを強く勧める。そうすることで、コミュニケーション能力を向上させ、仕事のニーズに対応できるだけの自信が十分できる。もちろん長期間留学するだけの金銭的な余裕は誰でもあるわけではなく、できるだけ速く看護学部に入学しなければというプレッシャーがある。しかし、英語に十分時間をかけなかったり、学部課程で1年だけしか就学していない看護師は、臨床実習に入った時点で多難に遭遇しがちであり、またコース

を修了できたとしても、多忙な一般病院で働いていくだけの自信が持てないということも起こり得る。一時的な回避策として高齢ケア、緩和ケア病棟、昼間クリニックのようなプレッシャーの比較的少ない部門での雇用を求めるという手もある。いずれにしろ、英語を母国語としない日本人看護師にとってはいくら看護師としての技術や知識に富んでいても、オーストラリアの病院で様々な経過や必要とする手順などを説明したり理解するのは至難の業である。さらに、オーストラリアの保健制度、他のスタッフとの人間関係、肉親との対応は日本で体験したそれと非常に異なっている上に、言うまでもなく全てが英語で遣り取りが行われるのだ。

オーストラリアの看護師を経験したいわけではなく、学士号を取得し、大学院(修士や博士課程)に進学したいというのであれば、看護登録なしのコンバージョンコースで就学することも可能だ。しかし、大学院課程においても、専門的な学問に特有の学術英語にとりくまなければならず、しかも看護学はもとより、社会学や哲学分野に深く関連するため、かなり上級の英語力が必要とされる。

産科学
オーストラリアにおける産科学の指導は、ここ数年間で様変わりしてきた。以前は、正看護師の訓練後に産科学の指導が行われるのが通例であったが、現在では数少ない大学が3年間の産科学士課程を開講している。そして、日本の助産師の資格を取得していても、オーストラリアで3年間学ぶことになる。

 

看護師であった筆者も、コミュニケーション能力の大切さは痛感している。コミュニケーション能力の向上には時間がかかるが、努力さえすればそれば必ず報いられ、オーストラリアで素晴らしい体験ができる。オーストラリアには可能性が満ちているが、各コース、大学の制度はそれぞれ微妙に異なり、また各々の状況や目標も又異なるのでどの進路をとるべきかの決定は困難だ。

同ページにはできる限り最新の情報を掲載しているが、州や大学において、様々な変更がなされることも多々あることをご了承願いたい。


貴方の経歴、将来の目標をお伝えいただければ、進路のオプション等のアドバイスをさせて頂きますので、ぜひご相談下さい。